心に感じたのは緑。森の木々に囲まれた場所で、下生えの草花の上に座っている。体を覆う冷たい空気は湿気を帯びて、草の匂いが鼻をつく。
木々の呼吸を思い、深く息をする。
森の隙間から覗く、まるく開けた空には、白い月が虚ろな姿をさらしている。目を閉ざせば、遠くから鳥のさえずり、木々のざわめき、呼吸の音。
森を歩いていると不意に姿を現す、ぽっかりと空いた場所で、妖精たちは小さな手と手を繋ぎ、輪になって踊るのだという。
誰かがそんな話しを語り始めたそんな物語を、幾人かの人がそれを耳にした。幾年かの月日時が流れ、伝承となり、あらすじは指と指にすくい取られ、陽にかざされ、透かし見られた。
妖精たちは踊りを止め、こちらをじっと見ている。ある妖精がすっと目の前に飛んできて、「森の迷い人」と呟いた。何か言おうとしたが、息が出ず、彼らは笑みを浮かべて消えた。
心に感じたのは緑。じっと森の隙間で佇 む。
(了)